最高裁判所第二小法廷 昭和35年(れ)2号 判決 1962年11月30日
判 決
栗栖赳夫
右受託収賄被告事件について昭和三四年一二月二六日東京高等裁判所の言渡した判決に対し検察官および被告人から各上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
検察官の上告趣意第一点について。
所論は採証法則違反、経験則違背、事実誤認の主張を出でないものであつて適法な上告理由に当らない。
同第二点について。
所論は事実誤認を前提とする単なる法令違反の主張であつて(引用の判例はいずれも公務員又は仲裁人がその職務に関し賄賂を収受した事案に関するものであつて、本件におけるが如く、被告人が中内幾太郎から金員を受領したのは、被告人の大蔵大臣あるいは復金委員会々長たる自己の「職務に関し受領したものではない」事案には適切を欠く)適法な上告理由に当らない。
被告人の上告趣意第一点について。
所論は、要するに被告人が国務大臣在任中、内閣総理大臣の同意なくして逮捕、勾留され、接見禁止の処分を受けたのは憲法七五条に違反するものであり、かかる違憲の処分によつて開始された一連の不法な身体拘束中に被告人を取調べた検事の聴取書の如きは適法な証拠とはなり得ないものであるのに、これを適法な証拠として有罪の認定をした原判決は違法であるというにある。
しかし、原判決が証拠資料とした所論検事の聴取書は、(イ)昭和二三年九月三〇日附聴取書と(ロ)同年一〇月二三日附聴取書との二通のみであること、そして右(イ)の聴取書は被告人の経歴認定の資料とされており、(ロ)の聴取書は、大蔵大臣である被告人が武田要輔(日本建材工業株式会社等の社長)から融資斡旋の請託を受けて承諾し、日本勧業銀行にその総裁西田太郎を訪れた際、同総裁に対して日本建材工業株式会社に対する融資の見込について尋ね、更に農林中央金庫理事長湯河元威が大蔵大臣官邸を訪れた際、同理事長に対し右融資の実現について配慮されるよう依頼する等の尽力をした事実及びその尽力に対する謝礼の趣旨で贈られることを知りながら右武田から本件金員等を受領した事実の認定資料とされていること原判決文上明白であるが、被告人の経歴の点は、右(イ)の聴取書を除いても、第一、二審公判調書中被告人の各供述記載、総理庁官房人事課長提出の「栗栖赳夫履歴書送付の件」と題する書面添付の履歴書の記載その他原判決挙示の各証拠により、又被告人が前記の如く受託収賄をした点は、右(ロ)の聴取書を除いても、原審公判調書中被告人の供述記載、第一、二審公判調書中第一審相被告人武田要輔の被告人として又は証人としての各供述記載、第一、二審公判調書中証人湯河元威の各供述記載その他原判決挙示の各証拠により、いずれも十分認定することができるのであるから、仮りに所論の如き違法ありとしても、原判決に影響を及ぼさないものであつて、原判決を破棄すべきものとは認められない。
同第二、三点について。
所論はいずれも事実誤認の主張であつて適法な上告理由に当らない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて刑訴施行法二条、三条の二、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
昭和三七年一一月三〇日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 池 田 克
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作之助
裁判官 草 鹿 浅之介
上告趣意≪省略≫